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ある村に、貧しい家族が住んでいました。どれだけ働いても役人に取り上げられ、今日一日を暮らすのもやっとの生活でした。ですが子供もよく働き、苦しくても家族は仲良く暮らしていました。
子供は二人兄妹でした。兄のヘンゼルは金の髪が陽に透けると美しく、深い海のような瞳の聡明な男の子です。妹のグレーテルは、巻き髪をお気に入りのリボンで結んだおしゃまな女の子でした。ヘンゼルは妹をたいそうかわいがり、どこへ行くにも二人は一緒でした。
ある日、町の役場へ貢ぎ物を納めにいった帰り、兄妹は手を繋ぎながら森の中を歩いていました。ですが、どれだけ歩いても出口は見つかりません。家までの道を間違えたのか、森で迷ってしまいました。もう一日中歩き回り、くたくたです。
妹のグレーテルはとうとうしゃがみ込んでしまいました。
「お兄ちゃん、腹ぺこでもう歩けない」
「もう少し頑張ってみようよ。きっと家に帰れるさ」
妹を気遣って兄のヘンゼルは励まします。
グレーテルの小さなかわいらしい鼻が、ぴくぴくと動きました。
「何かいい匂いがしてるよ」
ヘンゼルもぐるりと顔を動かし、辺りの匂いを嗅ぎました。
「お兄ちゃん、あそこ!」
突然、グレーテルは立ち上がり、森の奥へと勢いよく駆けていきました。ヘンゼルは妹の背を追いかけました。
二人は一軒の家に辿り着きました。匂いはこの家から漂っています。二人のお腹はキュルキュルと音を立てました。
「こんにちは」
ドアを開け、中を覗きましたが誰もいません。
家の周りを一周しましたが、やはり人影は見当たりませんでした。
「お兄ちゃん、このお家お菓子で出来てる!」
グレーテルは家の壁をぺろりと舐めてみました。木目に見えたのはバウムクーヘンでした。壁を伝う葉を引きちぎり、口に含んでみました。甘い砂糖菓子で出来ていました。
妹の姿を見て、ヘンゼルは慌てて手にしたものを取り上げました。
「食べちゃダメだよ。そんなにお腹が空いたの?もう我慢できない?」
グレーテルは二度大きく首を縦に振りました。この時、何故か兄の目は酷く哀しそうに見えました。
もうそれ以上ヘンゼルは何も言いませんでした。
グレーテルは再びお菓子の家に夢中になりました。家のドアにかじりつくと、チョコレートのほろ苦い味が口に広がりました。
その横を見ると、葉っぱのない小枝が転がっています。にょきっと伸びた細い枝を噛み砕きました。周りは弾力のある果物、中心はコリッとしたプレッツェルです。金色のふわふわした綿菓子が太陽にきらめきました。
これだけ食べてもまだグレーテルはお腹いっぱいになりません。
次に手にしたお菓子はドアの取っ手のような形をしています。そっと吸ってみると、ぐにゃりとした感触は次第に張りつめ、中からミルクが滴ってきました。丁度乾ききっていた喉が潤いました。
小さい赤い果肉は甘酸っぱいサクランボのようです。そして最後にグレーテルは中に青いゼリーの入ったマシュマロを二つ食べたところでようやく満腹になりました。
お腹がいっぱいになると一日歩き回ったこともあり、何だか眠くなってきました。こっくりと頭が揺れ、とうとう寝入ってしまいました。
どれくらい時間が経ったでしょう。寝ぼけた目をこすりながら、グレーテルはヘンゼルを探しました。ですがどこにも兄の姿は見当たりません。そして、よくよく目を凝らしてみると先ほどまで無心に食べていたお菓子の家もすっかり消え、目の前にあるのは古びて傾いた一軒の廃屋でした。
グレーテルは自分の足下を見ました。
そこにはヘンゼルの服だけが残されていました。



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08/08|掌編小説コメント(2)トラックバック(0)TOP↑
この記事にコメント
チャレンジ!
チャンレンジ精神に打たれます。
まあこ様は努力家ですね・・・
良い事です!!!
メルヘンならノヴァーリスの
「青い花」良いですよ!!!
From: アハウ * 2010/08/08 08:01 * URL * [Edit] *  top↑
メルヘン
唐突に浮かんだメルヘンホラー。

『残酷童話』というものが色々ありますよね。
(もともと童話は宗教じみているし、差別的なものも多いようですが)

夏だから少し怪談チックなものに仕上げてみました。
グレーテルが貪るようにしていたのは・・・・
From: まあこ * 2010/08/09 00:25 * URL * [Edit] *  top↑
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